歳月の儚さを感じる小説 旅のラゴス

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旅のラゴス (新潮文庫)

ファンタジー小説強化月間その3。この作品もファンタジーというよりSFの色が強く、ジャンルの境界線が曖昧です。ファンタジーやSFの傑作として色んなところでおすすめされていたので、いつか読みたいと思っていましたが、ついに機会がやってきました。筒井康隆は小さい頃読んだ七瀬三部作や富豪刑事など全てがお気に入りなので、読む前から期待値は高かったです。

旅に引き込まれる

「集団転移」という非現実なシーンから始まり、いきなり引き込まれます。動物も植物も、馬や牛など現実のものと似ているのによく見ると明らかに違う形態をしており、異世界の話であるということを冒頭で強烈に印象付けます。テレポートや壁抜け、予知能力などの超能力は昔読んだ七瀬シリーズを思い出しワクワクしました。

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ラゴスのかっこよさ

冒頭から既に成熟した大人であるラゴスは、事件に巻き込まれたり、奴隷として働かされたりと様々な困難に合いながらも、どこか精神に余裕があります。頭が良く機転も利き、同性からは尊敬され異性からはモテます。そう扱われるだけのかっこよさがあります。

一緒にするのもどうかと思われそうですが、流行の主人公最強系のライトノベルのような爽快感が作品にあります。一方、このような主人公がはじめから万能で好き勝手に生きるスタイルは、レビューなどを読んでいると特に女性からはあまり評判が良くないケースもあるようです。

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時間の儚さ

この作品はストーリーがサクサク展開していき、気がつくと何年も経っていたりします。特に奴隷として捕まってしまい7年間も銀鉱で働かされる章では、描写が短いことで余計に時間の経過を印象付け、読み手にも「気がつくとそんなに時間が経っていたのか…」とリアルな感覚を味わわせます。このシーンではなんだかドラクエ5の主人公を思い出しました。

安定を捨てていく

ラゴスは、旅の一つの目的地でもあったポロという街にたどり着き、そこでなんと王になりカカラニとニキタという二人の美しく若い妻を得ます。ほとんどの人間はここで旅を終え、王として一生この街で若い妻たちと暮らすはずです。しかしラゴスにとってはそこも旅の通過点でしかなく、飽くなき探究心と向上心によって、これ以上ないほどの安定を捨て新たな旅へ出ます。

このシーンを読んで、「ラゴスもったいねえ…」という感想と共に、その自由な生き方に憧れを抱きました。現実の世界では安定を捨てるなど相当の覚悟がなければできません。本の中での、幻想の世界でのことですが、決してとどまることなく進み続けるラゴスに、いい大人がヒーロー的なかっこよさを感じました。

まとめ

どんな困難にも足を止めず、死ぬまで旅を続けるラゴスの生き様が、読んでいて爽快でした。老人になったラゴスが、先の見えない暗く寒い森へと消えていくラストシーンは感動的で、独特の読後感を味わうことができます。久しぶりに素晴らしい本と出合えたと胸を張って言えるくらいおすすめの一作です。

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