自分を受け入れる旅 影との戦い – ゲド戦記

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影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

ファンタジー小説強化月間その2です。2006年にジブリによって映画化もされたシリーズ。僕は映画は観ていないのですが、ファンタジー小説の名作としてゲド戦記シリーズの1作目であるこの「影との戦い」がよく挙げられていたので、興味をそそられ読んでみました。

あらすじ

ゲド(ハイタカ)の少年期から青年期の物語。ゲドは才気溢れる少年だったが、ライバルよりも自分が優れていることを証明しようとして、ロークの学院で禁止されていた術を使い、死者の霊と共に「影」をも呼び出してしまう。ゲドはその影に脅かされ続けるが、師アイハル(オジオン)の助言により自ら影と対峙することを選択する。

引用:Wikipedia ゲド戦記 

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感想

主人公ゲドの人間くささ

主人公であるゲドは、物語序盤では類まれな魔法の才能を持った少年として登場します。しかし、決してヒーロー的な存在ではありません。お高くとまった学校の先輩を嫌っていたり、才能を鼻にかけ傲慢な部分もあります。ある日、その先輩とのちょっとした喧嘩が原因でこの物語の重要な存在「影」を呼び出してしまうという取り返しのつかない失敗をします。その失敗以降は人が変わったように自分の殻に閉じこもってしまい、影を恐れるようになります。

根拠のない少年時代の万能感や、失敗による挫折、トラウマなど、極めて人間らしい心の動きが妙に共感できます。同時に、物語を通して影と対峙し徐々に精神的にも強く成長していく描写に勇気付けられたりもします。

後の小説に影響を与えた設定

魔法を使うには対象の「真の名」を知らなければならない。魔法使いは「真の名」を知られないように親しいもの以外には偽名を名乗る。正しい魔法は魔法学校で学ぶ。

など、この作品は魔法について詳細に設定がされています。この設定は、後のファンタジー小説に多大なる影響を与えました。例えば、魔法の才能を持った子供が全国から集まり、魔法を学ぶ「魔法学校」という設定は、「ハリーポッター」シリーズも影響を受けています。魔法使いがそれぞれ1匹ずつ動物を飼うというのも似ていますすね。

師匠や親友の存在

ゲドには数少ない心を許した存在がいました。それは、師匠オジオンと、唯一とも言える親友カラスノエンドウです。影に怯え塞ぎこんでいたゲドを師匠が立ち直らせ、親友であるカラスノエンドウはなんと影と決着をつけるための最後の旅に自分の仕事を置いてまで同行してくれます。

影というもう一人の自分と向き合う孤独な旅に思えますが、ゲドは心の支えとなる存在に助けられながら前に進んでいきます。きっと一人では早々に折れてしまっていたでしょう。時には周りの存在に助けを求めることの必要性を感じました。

ジブリの映画は第3巻

僕はてっきりこの「影との戦い」が映画になっているものと思い込んでいました。読みながら、「この部分は映像ではどうなっているんだろう」とか思っていました。ところが、どうやら映画ではゲド戦記の第3巻「さいはての島へ」を原作としているようです。ゲドも出てくるようですが、3巻の時代では既に歳を取っておじさんになっているみたいです。いつになるか分かりませんが、映画は最低でも2巻を読むまでは観ないでおこうと思います。

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まとめ

才能溢れる鳴り物入りの少年が魔法学校に入学するという展開はハリーポッターを連想しました。が、主人公ゲドは序盤の頃はハリーに比べるとひねていて、才能を周りに披露したがるような部分もあります。そこから大きな挫折を経験し、自分の失敗、トラウマ、後ろめたい部分の象徴でもある「影」に向き合って、問題を解決しようと努力する強い青年への成長の過程が、ギュッとコンパクトにまとめられている作品でした。

僕がファンタジー小説に求める「ワクワク感」のようなものはあまりなく、特にゲドが影を追って各地を旅する後半は、割とハードボイルドな印象を受けました。魔法という存在も、最近の作品のように分かりやすく名前が付いていたりなどはなく、描写は地味です。それはそれで一つの物語としては読み応えがあり面白かったのですが、読了後2巻以降をすぐに読みたくなる感じにはなりませんでした。今のところ、ファンタジーを読むならもう少し派手目でワクワク感のある作風を欲しているようです。また気が向けば2巻も読んでみようと思います。

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